安全性・流動性・収益性の考え方
*この連載では、信用金庫の有価証券運用を「なぜそう考えるのか」という視点から、実務経験をもとに解説していきます。
信用金庫は預かった預金をすべて融資に回しているわけではありません。地域の資金需要は日々変化するため、一時的に使われない資金が生まれます。
その資金を安全かつ効率的に運用するのが「余資運用」です。
例えるなら、家庭でも当面使う予定のないお金を普通預金だけに置かず、定期預金や債券などで運用することがあります。
信用金庫の余資運用も基本的な考え方は同じですが、地域金融機関として安全性や流動性をより重視しながら行われます。
余資運用によって、地域への融資を補完しつつ、収益を積み上げることで自己資本が厚くなり、将来の損失にも耐えられる経営基盤につながります。
余資運用にあたっては、資産の安全性・流動性・収益性のバランスが重要だといわれます。では、実際には3つのうちのどれが優先されるべきでしょうか。
余資運用の目的
信用金庫における余資運用の目的は、融資だけに依存しない安定的な収益源を確保することです。
信用金庫の本業は融資ですが、地域の資金需要は景気によって変化します。余資運用は、その変動を補う第二の収益源として重要な役割を担っています。
地域の融資需要が一時的に弱い局面でも、余資運用によって収益を補完することができます。
また、金利変動や市場リスクを管理しながら、自己資本の充実も図れます。
リスク管理と健全性確保
余資運用は、地域金融機関としての本来業務を妨げない範囲で行われなければなりません。
したがって、安全性・流動性・収益性のバランスを考え、金利や市場環境、発行体の信用力などを注視し、損失発生の防止や損失の最小化に努めることが求められます。
金利リスクや価格変動リスクを踏まえ、資産査定や引当を適切に実施することも必要とされます。
安全性・流動性・収益性のバランス
余資運用にあたっては、安全性・流動性・収益性の三つを横並びで捉えて同じ程度で重視することは現実的ではありません。
教科書ではこの三つを並列に説明することが多いようですが、実際の運用では優先順位があります。
地域金融機関においては、安全性と流動性を土台にして、許容できる範囲で収益性を追求するといった方針が適切だと考えられます。
安全性
信用金庫の余資運用は安全性の確保を軸としており、信用金庫法や内部規程が定める制限もあるため、国債などへの債券投資が中心になります。
株式や株式投信は、価格変動リスクが大きく、元本割れリスクも高い資産であるため、多くの信用金庫はコアとなる資産の補完的資産といった位置づけにしています。
債券投資の安全性には、発行体がきちんと返済するかという「信用リスク」と、金利変動によって価格が変動する「金利リスク」の二つがあります。
余資運用においては、返済の確実性と、価格変動による自己資本への影響が小さいことが求められます。
安全性については、信用金庫内の会議(ALM委員会や取締役会など)において定期的にチェックされています。
流動性
流動性とは、現金が必要な時に、いつでも、過度な損失なしに現金化できるかということです。
売却したいときに、売りたい人ばかりで買う人が少ない(市場の需給が薄い)場合、適正な価格で売れない、または、取引が成立しないといったことになってしまいます。
預金解約や貸出実行などに支障が出ないように、流動性の高い運用資産を一定以上保有することも必要です。
安全性・流動性と収益性
安全性や流動性を損なわない範囲でどこまでリスクを取るかは、どれだけの収益を必要としているかにかかっています。
安全性を重視した運用では利回りは低くなり、リスクを取るほど利回りは高くなります。リスクとリターンはトレードオフの関係にあります。
余資運用は本業である融資を補完するものなので、資金調達コストと貸出収益の水準から収益性を議論しなければなりません。
高利回りだがリスクが高いものよりも、説明が容易でシンプルなものを中心に、一部をリスク資産にも振り分けることが現実的な運用体制です。
誰にでも説明できる運用であることは、地域金融機関では重要な考え方です。
また、短期で支払い等が必要となる資金については流動性重視で、中長期で安定的な資金については一定のリターンを狙うといった使い分けも必要になります。
このように、資金の性格ごとに収益の目標を変えることは大事なことなのです。

では、その余資運用の中心となる有価証券は、どのような役割を果たしているのでしょうか。
次回は、有価証券運用の使命について見ていきます。
📌 30秒で振り返り
・余資運用により融資を補完し、信用金庫の収益と健全性を高めることができる。
・余資運用にあたっては、資産の安全性・流動性・収益性のバランスが重要。
・信用金庫では、安全性と流動性を土台に、許容できる範囲で収益性を追求する。
💡 筆者メモ
実際の運用では、「安全性・流動性・収益性」の三つをすべて最大にすることはできません。
どれかを高めれば、別の要素はある程度犠牲になります。
私が携わっていた運用でも、まず安全性と流動性を確保し、その範囲で収益を追求することを基本としていました。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供および教育を目的として作成したものであり、特定の金融商品の売買や投資判断を推奨するものではありません。投資に関する最終判断は、ご自身の責任においてお願いいたします。詳細は免責事項をご覧ください。
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