金利の現在地と行き先
*金融政策の転換が予想される局面では、長期金利が短期金利より先に動くことがあります。現在の短期金利が変わらなくても、将来の短期金利の予想が変われば、長期金利はそれを先に織り込んで動くからです。
まず、前回までの内容を簡単に振り返ります。
第13回では、短期金利は「1年未満の資金取引に付く金利。代表例は無担保コール翌日物金利であり、この金利は日銀が定めた政策金利へ誘導する目標水準。信用金庫の融資・運用・預金に幅広く影響する。」と述べました。
また第14回では、長期金利は「1年超の資金取引に付く金利。代表例は新発10年国債の利回りであり、将来の短期金利や物価、国債の需給などを市場参加者が織り込んで売買することで決まる。債券の利回り(時価)や長期固定金利の基準になる。」と説明しました。
2回にわたり短期金利と長期金利を別々に見てきましたが、今回は、この二つがどうつながっているのかを整理していきます。
「将来の短期金利の平均」としての長期金利
長期金利は、これから先の短期金利がどうなりそうかという市場の予想を平均したものに、長い期間に伴う不確実性(リスク)への対価分を上乗せしたもの、と考えることができます。
イメージとしては、
①これから10年間の短期金利が、平均してどのくらいになりそうか ②10年間資金を固定する不確実性に対して、投資家がどの程度の上乗せを求めるか
この二つを足し合わせたものが、「10年ものの長期金利」の理論的な捉え方の一つとなります。
この上乗せ部分を、タームプレミアム(注1)といいます。
物価見通しや国債の需給によっても長期金利は動きますが、物価見通しや国債需給の影響を受けた短期金利の予想やタームプレミアムの変動を通じて長期金利は動くと考えることができます。
(注1)タームプレミアムについては、次回詳述します。

ざっくりいうと、短期金利は日銀が示す「現在地」の金利、長期金利は市場が見通す「将来の行き先」を映す金利になります。
具体的なストーリー例
例えば、今の政策金利が1.0%だとします。
ニュースでは、景気が回復傾向で、インフレ率も少し高めになってきていると報じられています。
市場参加者は、「日銀は、来年あたりから少しずつ利上げしていくのではないか」と考え始めます。
日銀はまだ政策金利を動かしていないため、短期金利は1.0%近辺のままです。しかし市場では、「これから10年間の短期金利は、平均すれば現在より高くなりそうだ」という見方が広がります。
すると、国債を今の価格で買おうとする投資家が減り、国債価格が下がって、10年国債の利回りが上がります。
このようにして、実際の利上げを待たずに、長期金利が先に上がることがあります。新聞に「日銀は政策金利を据え置いたが、長期金利は上昇した」と書かれるのは、このような場面です。
では、このような状況で、運用現場では何を検討するのでしょうか。課長と運用担当者との会話で見てみます。
課長:「日銀は政策金利を変えていないけれど、10年国債の利回りは少しずつ上がっているね。市場が、先々の追加利上げや物価上昇をこれまでより強く見始めた可能性がある。」
担当者:「それなら、今、長めの国債を増やすと、金利がさらに上がったときに評価損が出やすい、ということですね。」
課長:「そう。そこで、デュレーション(注2)をやや短めにして、将来、より高い利回りで投資できる余地を残す判断もあり得る。ただし、金利がどこまで上がるかを決めつけず、保有債券の残存期間や評価損益、リスク許容度を合わせて考える必要があるね。」
(注2)デュレーションは、債券投資の平均的な回収期間を示すとともに、金利変化に対する債券価格の感応度を測る指標です。現場でよく使われるため、別の記事で詳しく説明します。
この会話からも、短期金利は日銀が示す現在の水準、長期金利は市場が見通す将来の短期金利の平均を反映した水準、というつながりが見えてきます。
まとめ
このように、長期金利は、将来の短期金利の予想平均に、長い期間に伴う不確実性への上乗せであるタームプレミアムを加えたもの、と理解できます。
短期金利が日銀の示す「現在地」だとすれば、長期金利は、市場が見通す「将来の行き先」を映す金利です。
運用担当者には、この二つをセットで見ながら、ポートフォリオや貸出金利への影響を考えることが求められます。
ニュースを見たときにも、
・ニュースに出てくる金利は短期金利の話なのか、長期金利の話なのか
・その動きから、日銀の政策と市場の見通しをどう読み取るか
・それが、自分たちの運用や融資にどう影響しそうか
という三つの視点で考えることが大切です。
次回は、イールドカーブ(利回り曲線)を使って、将来予想される短期金利が年限ごとの長期金利にどのように反映されるのかを、基本から説明します。
📌 30秒で振り返り
・長期金利は、将来の短期金利の予想平均に、長い期間に伴う不確実性への上乗せ(タームプレミアム)を加えたもの。
・短期金利は日銀が示す「現在地」、長期金利は市場が見通す「将来の行き先」を映す金利と捉えられる。
・金利を見るときは、短期か長期か、日銀と市場の見方はどうか、信用金庫の運用や融資にどう影響するかを考える。
💡 筆者メモ
日銀の利上げが予想されると、実際の利上げより前に国債利回りが上昇することがあります。その動きは、長期固定貸出や固定型住宅ローンの金利にも影響します。
一方、預金金利や短期貸出金利は、政策金利の変更を受けて見直されることが多いため、利上げを先取りした長期金利より遅れて動く場合があります。
ただし、長期金利が常に先に動くとは限りません。短期金利の予想だけでなく、物価見通しや国債需給、タームプレミアムも変化するためです。だからこそ、長期金利の動きを、将来に対する市場の見方として丁寧に読むことが重要です。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供および教育を目的として作成したものであり、特定の金融商品の売買や投資判断を推奨するものではありません。投資に関する最終判断は、ご自身の責任においてお願いいたします。詳細は免責事項をご覧ください。
© 2026 運用案内人 KAZU
当サイトの記事・図表・画像の無断転載・複製・AI学習への無断利用を禁止します。
コメント